「昔は本当に頼りになったんだが…」。社長室で、そんな溜息まじりの言葉を聞くことがあります。かつての功労者が、いつしか変化を拒み、過去の栄光ばかりを語るようになる。
その姿に、もどかしさと寂しさを感じている経営者は少なくないでしょう。しかし、彼らを一方的に「働かないおじさん」と断罪する前に、一度立ち止まって考えてみてほしいのです。
彼らは、好きでそうなったのでしょうか。新しいやり方についていけない焦り、若手社員との埋められない溝、そして何より「もう会社は自分に期待していないのではないか」という孤独感。その静かな絶望が、彼らから挑戦する意欲を奪い、プライドという名の鎧で心を固く閉ざさせてしまったのかもしれません。これは個人の問題というより、彼らをそうさせてしまった組織の構造的な問題でもあるのです。
言ってはいけないNGワードと、響く言葉
そんな彼らの固く閉ざされた心の扉を、力ずくでこじ開けようとしてはいけません。「あなたのやり方は古い」「今の時代はこうなんだ」といった正論は、彼らの存在そのものを否定するナイフとなり、関係を決定的に壊してしまいます。
「昔は良かった」という口癖も、単なる懐古主義ではなく、自分の価値を認めてほしいという悲痛な叫びなのかもしれません。だからこそ、私たちがかけるべき言葉は、彼らが積み重ねてきた経験への敬意と、未来への期待です。
「そのやり方は古い」ではなく、「〇〇さんのその経験があったからこそ、今の会社がある。本当に感謝しています。その上で、今のこの課題を乗り越えるために、あなたの知恵を貸してくれませんか」と。
過去を認めた上で、未来の戦力として「あなたが必要だ」と伝える。その一言が、彼らのプライドを守り、もう一度立ち上がろうという気持ちの火種になるのです。
ベテランの経験を「宝」に変えるための処方箋
錆びついてしまった剣も、磨き方次第で再び唯一無二の輝きを放ちます。そのためには、具体的な「処方箋」が必要です。まずは、彼らのための「指定席」を用意すること。
例えば、長年の経験が生きるクレーム対応の最後の砦や、若手社員の技術指導・メンター役など、彼らが再びヒーローになれる舞台を意図的に作るのです。そして、新しい挑戦を促す際は、決して高いハードルを課してはいけません。
小さなプロジェクトを任せ、「やれば、できる」という小さな成功体験を積み重ねてもらう。何より大切なのは、経営者であるあなた自身が、彼らの変化や貢献を見逃さず、「ありがとう、助かったよ」と直接、感謝を伝えることです。
社長が自分を見てくれている、まだ期待してくれている。その実感が、何よりの良薬となり、彼らの心を再び戦場へと向かわせてくれるはずです。ベテラン社員は、会社の歴史そのものであり、磨けば光る「宝」なのですから。
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ビジネスコーチ大本から、今日のコーチングです。
▼あなたが心のどこかで「お荷物だ」と感じてしまっている社員。もし明日、彼が突然会社を辞めると言ったら、あなたは心の底から「寂しい」と言えますか？
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