『社員を想う気持ち』が、会社を壊すこともある。〜優しさの罠〜

失敗からの逆転:経営者の教訓

その温情は、本当に「社員のため」ですか?

「社員は家族だ」「この会社にいる限り、絶対に食わせていく」…。経営者なら誰しも、一度はそんな熱い想いを胸に抱くのではないでしょうか。私もそうでした。

社員たちの生活を守りたい、その一心で日々を駆け抜ける。その親心にも似た感情は、組織をまとめる上で何より尊いものだと信じていました。しかし、私自身の痛い経験から言えるのは、その純粋な「優しさ」こそが、時として会社を根底から腐らせ、未来を奪うもろ刃の剣になる、という厳しい現実です。

なぜ、必死の想いは届かないのか

かつて私が経営に関わっていた会社が傾いた時、真っ先にやったのは自分の蓄え(長女の学資保険)を切り崩して、社員の給料を補填することでした 。皆の生活を守りたい、その一心です。しかし、会社の本質は、顧客に価値を提供し、その対価として利益を得ることにあります。その大原則から目をそらし、内部の「身内」を守ることばかりに固執した結果、会社の財務はどんどん悪化していきました。

善意で続けていた温情も、会社の存続という土台が崩れてしまえば、何の効力も持ちません。むしろ、「なぜもっと早く手を打たなかったんだ」という不満に変わるのです。苦しい現実から目を背けた優しさは、結局誰のためにもならない、ただの自己満足だったのかもしれません。

当たり前が消えた時、感謝は刃に変わる

業績が良い時は、多少の無理をしてでも賞与を出したり、手当をつけたりしていました。それが社員の笑顔に繋がると信じていたからです。しかし、会社が傾き、それらが「出せない」状況になった時、事態は一変しました。

今まで当たり前にあったものが無くなった瞬間、感謝の言葉をかけてくれる社員はほとんどいませんでした。むしろ、「生活がかかっているのに」「裏切られた」という鋭い言葉が突き刺さったのです。守ろうと必死だった私にとって、それは本当に悲しく、孤独を感じる瞬間でした 。温情に慣れてしまった組織は、逆境に驚くほど弱い。経営が苦しい時にこそ支え合える関係性を築けていなかったのは、他ならぬ経営者である私の責任だったのです。

信じるからこそ、厳しい責任を託す

どん底を経験して私が学んだのは、経営者が社員に本当に与えるべきは、無条件の庇護や温情ではない、ということです。それは「責任」という名の信頼です。会社のビジョンを共有し、その実現のために一人ひとりが何をすべきかを考え、行動する。失敗を恐れず挑戦できる環境を用意し、その結果に対しては、たとえ厳しくとも真摯に向き合う。それが人を育て、強い組織を創り上げていく唯一の道なのだと、今なら確信を持って言えます。

本当の優しさとは、居心地の良いぬるま湯を提供することではない。共に厳しい航海を乗り越え、成長という名の宝物を分かち合う覚悟のことなのです。

「甘え」と「信頼」の境界線で悩むあなたへ。私とその答えを一緒に見つけませんか?


ビジネスコーチ大本から、今日のコーチングです。

▼あなたのその「優しさ」は、社員の未来の可能性を奪ってはいませんか?

この記事を書いた人
おおもと経営オフィス 代表
大本 佳典

大本佳典【公式】 / Yoshinori Oomoto
おおもと経営オフィス 代表
1993年より企業経営に携わる、「経営者の心に寄り添う経営コンサルタント」
[経歴と実績]
経営戦略立案、融資サポート、ビジネスコーチングの専門家。年間のセミナーなど登壇回数は100本超え。
北海道商工会議所連合会エキスパートバンク登録専門家、北海道商工会連合会エキスパートバンク登録専門家として活動。
[趣味]
美味しい料理と日本酒を楽しむこと、写真撮影。
北海道を愛車の MINI COOPER で走り回ること。年間走行距離は20,000km超。
[ブログについて]
経営者の皆様に寄り添い、実践的なビジネス戦略や心構えについて発信してます。
失敗と復活を経験した視点から、北海道の企業の成長と発展に少しでも貢献できたら嬉しいです。

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