「これくらいは、専務の特権だよな」
深夜、一人でバーのカウンターに座り、琥珀色の液体を眺めながら、私はそんな風に自分に言い聞かせていました。会社の経費で飲む酒の味は、格別なものでした。もちろん、会議や接待ではありません。純粋に、自分への「ご褒美」のつもりでした。
日中は会社のために身を粉にして働いている。社員の生活を守るために、頭を下げ、走り回っている。だから、夜の数時間、少しばかり会社の金でうまい酒を飲んだって、バチは当たらないだろう。そんな甘えが、私の心の中に確かにありました。一つ許してしまえば、後は坂道を転がるようなものです。週に一度だったのが二度になり、三度になるのに、そう時間はかかりませんでした。
領収書の裏で、失っていたもの
私は、うまくやっているつもりでした。あたかも仕事関係の会食であるかのように見せかけていました。総務部の同僚も、まさか専務である私がそんなことをしているとは夢にも思わなかったでしょう。完璧な隠蔽工作。当時の私は、自分のずる賢さに、少しばかり酔っていたのかもしれません。
しかし、本当に失っていたものの大きさに、私は全く気づいていませんでした。それは、お金ではありません。会社の資産でもありません。目には見えないけれど、経営にとって最も大切な「信頼」という名の財産でした。
ある日、一人の若手社員が、私にこう言ったのです。「専務、最近お疲れじゃないですか?あまり無理なさらないでくださいね」。その言葉は、純粋な心遣いから出たものだったでしょう。しかし、私の胸にはナイフのように突き刺さりました。彼女の優しい瞳の奥に、「本当は、気づいていますよ」という声が聞こえたような気がしたのです。
その瞬間、全身の血の気が引くのを感じました。隠し通せていると思っていたのは、私だけだったのかもしれない。彼らは、私の嘘も、私の弱さも、すべてお見通しだったのではないか。
社員は、上司の「背中」を見ている
会社の危機を乗り越え、どん底を味わった今だからこそ、はっきりと分かります。社員は、経営者が語る立派な言葉を聞いているのではありません。その行動を、その「背中」を実によく見ています。
「会社を良くしたい」「社員を大切にする」と口では言いながら、その裏で私腹を肥やすような行動をとる上司を、誰が心から信頼するでしょうか。私が領収書の裏で失っていたのは、社員たちの「この人についていきたい」という純粋な気持ちそのものだったのです。
経営者の孤独は、時として判断を誤らせます。しかし、その孤独を言い訳にして、規律を緩めてはならない。自分自身にだけは、決して嘘をついてはならない。この当たり前の事実に気づくために、私はあまりにも大きな代償を払いました。
その「ご褒美」、実は社員からの信頼を失っていませんか?第三者の目で経営を振り返る
ビジネスコーチ大本から、今日の質問です。
▼ もし、あなたの全ての経費領収書が全社員に公開されるとしたら、あなたは1ミリも動揺しませんか?
[サムネールは ChatGPT で作成しました。]
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