「部長がそう言うなら、間違いないな」
これは、私が以前ご支援したある社長さんの口癖でした。長年会社を支えてくれたベテランの経理部長に、社長は絶大な信頼を寄せていました。毎月の数字の報告はもちろん、銀行との交渉から細かな経費の判断まで、まさに会社の金庫番として、そして社長自身の「懐刀」として、彼の存在は不可欠だったのです。
経理部長もその信頼に応え、常に会社の数字に厳しく、少しでも無駄な支出をなくそうと尽力してくれていました。それは、社長と番頭による理想的な関係そのものに見えました。
しかし、その強固な信頼関係が、会社の未来を縛る鎖になるとは、当時の社長は気づいていませんでした。いつしか、「部長の言う通りにしていれば安泰だ」という安心感が、社長から未来志向の挑戦心を奪っていたのです。
その「正しさ」が、会社の未来を蝕んでいった
その会社の利益は、決して悪くありませんでした。しかし、何年経っても事業は縮小均衡をたどり、市場での存在感は少しずつ薄れていきました。理由は明白です。社長が新しい設備投資や人材採用を口にするたびに、経理部長は「社長、その投資は予算にありません」「まずは既存事業のコストを削減することが最優先です」と、”正論”でそれを制したのです。
その言葉を信じ、社長は未来の収益を生むための投資を何度も先送りし続けました。コストカットによって、帳簿上の利益は守られるかもしれません。しかし、それは未来の成長の種を、自らの手で摘み取っているのと同じことでした。
競合他社が新しい技術で顧客を掴み、活気ある若手が会社を盛り立てていくのを横目に、社長の会社は静かに、しかし確実に活力を失っていきました。経理部長は財務の専門家であって、経営の専門家ではなかった。その当たり前の事実に気づいた時、社長は愕然としたそうです。
「懐刀」と「対等に」付き合うために、社長が持つべき視点
この話は、決して他人事ではありません。孤独な経営者にとって、苦楽を共にしてくれる番頭や幹部の存在は、何物にも代えがたい宝です。しかし、忘れてはならないのは、どんなに信頼する部下の意見も、あくまで「判断材料の一つ」でしかないということです。
最終的に会社の未来をどう描き、そのために今、何に資源を投下すべきかを決断するのは、社長であるあなた自身です。私自身も、会社を潰した経験の中で、人の意見に流されて判断を誤った苦い記憶があります。だからこそ断言できます。
信頼する部下と付き合う上で最も大切なのは、彼らの意見を鵜呑みにすることではなく、自社のビジョンや理念という「揺ぎない判断軸」を持つこと。そして、その軸に照らし合わせて、彼らの提案を主体的に取捨選択することです。あなたの会社の経営参謀は、経理部長でも、他の誰かでもありません。あなた自身なのです。
『経理の言う通り』の経営から卒業し、未来への投資を判断したいあなたへ
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