今でも、あの日の朝礼の光景は、瞼の裏に焼き付いて離れません。社員たちの前に立つ、わずか数メートルの距離が、果てしなく遠く感じられました。口の中はカラカラに乾き、心臓は嫌な音を立てて脈打つ。これから自分が口にしなければならない言葉の重さに、足がすくむ思いでした。
「みんな、すまない。給料、一日だけ待ってくれ」
絞り出した声は、自分でも情けないほどに震えていたと思います。その一言を発した瞬間、オフィスの空気が、まるで真冬の屋外のように、一瞬で凍りつきました。シン…と静まり返った空間に、誰かが無意識にペンを置く音だけが、やけに大きく響き渡る。冗談を言い合っていたはずの社員たちの顔から表情が消え、いくつもの視線が、疑いと、失望と、そしてわずかな侮蔑をたたえて、私に突き刺さりました。あの視線は、一生忘れることはないでしょう。
お金以上に失った、社員からの信頼
たった一日。資金繰りに奔走し、なんとか翌日には全額を振り込むことができました。しかし、私が失ったものは、そんな「一日分の利息」などという生易しいものでは到底ありませんでした。失ったのは、お金では絶対に買い戻すことのできない、社員からの「信頼」そのものです。
その日を境に、会社は変わってしまいました。もちろん、業務は回ります。報告も連絡も、以前と同じように行われる。しかし、そこには決定的に何かが欠けていました。朝の挨拶から活気が消え、雑談の中にあった笑い声が聞こえなくなる。社員たちが交わすのは、業務上、最低限必要な言葉だけ。オフィスは、ただ機能だけが残った、冷たい箱になってしまったのです。
彼らにとって、給料とは単なる労働の対価ではありません。それは、自分の生活を、家族の未来を、この会社に預けているという信頼の証です。そして私は、その最も根源的な信頼を、経営者として、いとも簡単に裏切ってしまった。その事実に気づいた時、私は本当の意味での「どん底」を知りました。
会社が絶対に破ってはならない、たった一つの約束
この手痛い失敗から、私は経営における本質的な教訓を学びました。それは、会社と社員の間には、雇用契約書に書かれている以上に、もっと大切で、絶対に破ってはならない約束がある、ということです。
それは、「何があっても、社員の生活の基盤は、会社が命を懸けて守る」という、暗黙の、しかし最も重要な約束です。
どんなに立派なビジョンを語っても、どんなに高い目標を掲げても、このたった一つの約束が守られなければ、すべては砂上の楼閣に過ぎません。社員たちは、安心して背中を預けることができない司令官のために、命を懸けて戦うことなどできないのです。この失敗がなければ、私は「社員を大切にしながら利益を出す経営」という、今の私の哲学の核心に、たどり着くことはなかったでしょう。
だからこそ今、私は経営者の皆さんに寄り添う「経営参謀」として、口を酸っぱくして資金繰りの「見える化」の重要性を説くのです。あの地獄のような空気を、誰にも味わってほしくはありません。
「給料、一日待ってくれ」と頭を下げる前に、あなたの経営参謀に相談しませんか?
ビジネスコーチ大本から、今日のコーチングです。
▼ 給料の支払い以外で、社員が「社長はこれだけは絶対に裏切らない」と信じている約束は何だと思いますか?
サムネールは ChatGPT で作成しました。
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