会社が駄目になってから数年後、私は街で偶然、元社員のひとりと顔を合わせました。気まずい空気が流れるかと思いきや、彼は少し笑ってこう言ったんです。「専務、お久しぶりです」と。
その後の雑談のなかで、私がずっと聞けなかったことを思い切って尋ねると、彼は少し遠い目をして、衝撃的な言葉を口にしました。「あの頃、会社が本当に危ないって、現場の僕らはみんな気づいていましたよ。でも…誰も言えなかったんです」と。
風通しが良く、社員との距離も近い。私は本気でそう信じ込んでいたのです。社長も私も、社員がいつでも相談に来れるようにと、役員室のドアは常に開け放っていました。しかし、その開け放たれたドアは、私たちが思うような機能を持っていなかった。それどころか、私たち経営陣と社員との間に、見えない分厚い壁として立ちはだかっていたことに、私はこの時まで気づくことすらできていませんでした。
彼らが抱えていた、私への「恐怖」
彼の言葉は続きました。「専務、怖かったんですよ」。私は耳を疑いました。可愛がっていたつもりの、信頼していたつもりの社員から向けられた、あまりにも率直な感情でした。
あの頃の自分を必死で思い出しました。確かに、業績の悪化に歯止めをかけようと、私は必死でした。会議では厳しい言葉が飛び、報告が少しでも遅れれば声を荒らげることもあったかもしれません。「会社を立て直したい」「社員の生活を守りたい」その一心で、私はいつしか鬼の形相になっていたのでしょう。
良かれと思ってやっていた全てのことが、私の情熱や必死さが、社員たちにとっては「恐怖」の対象でしかなかった。彼らは会社の危機に気づきながらも、「専務に報告したら、また怒鳴られる」「余計なことを言ってクビになるかもしれない」そんな恐怖心から口を閉ざしてしまったのです。私は社員を大切にしているつもりでした。
しかし、それは経営の駒として大切にしていただけで、彼ら一人ひとりの心に寄り添うことを、完全に見失っていたのです。
本当の「風通しの良さ」とは何か
どん底に落ちてみて、初めて気づきました。本当の「風通しの良さ」とは、ドアを開け放っておくことでも、飲み会で無礼講をやることでもない。
それは、経営者が自らの弱さや失敗を、まず社員にさらけ出すことから始まるのだと。専務という鎧を脱ぎ捨て、「助けてくれ」「みんなの知恵を貸してほしい」と、一人の人間として頭を下げられるか。悪いニュースを持ってきた社員を、決して責めずに「教えてくれてありがとう」と感謝を伝えられるか。
そんな心理的な安全性を、経営者が自らの手で築き上げることこそが、本当の風通しの良さなのだと痛感しました。この手痛い失敗経験があるからこそ、今の私があります。
個別相談を社長さんから受ける時は、私はまず、自身の最も恥ずかしい失敗談から語るようにしています。それが、経営者の孤独な心を解きほぐし、本当の意味で信頼関係を築くための、唯一の方法だと信じているからです。
社員の「怖くて言えなかった」が聞こえる組織へ。あなたの経営参謀になります
ビジネスコーチ大本から、今日のコーチングです。
▼あなたが最後に、社員の意見に「私が間違っていた」と心から伝えたのは、いつですか?
サムネールは ChatGPT で作成しました。
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