あるとき、今日まで私が何台の自動車を買ったかを計算してみたところが、33台も買っていることがわかって、われながら驚いた。
そこで、あなたに質問してみよう。
この33台の自動車を私に売り込んだセールスマンは、いったい何人くらいだったと思いますか?
これがまさに33人だったから驚くほかはない。
私の知るところでは、一度私に自動車を売り込んだ33人のセールスマンのうちで、ただの一人も二度と私のところへ来た者がいなかったのである。
私が買うまでは、私というものに対して非常な関心をもっていた人たちであったが、いったん買ってしまった後は、一度すら電話をかけて、車の具合はその後どうかといって尋ねようとさえしないのである。
車の代金を払って、取るだけのコミッションを取ってしまうと、とたんにこの世の中から姿でも消したかのように寄りつこうともしないのだ。
これは珍しいことだろうか。
全国各地を回って講演をした機会に、いつもこの話を持ち出して君たちの中でこれと同じような経験をしたことはないかと尋ねると、その半数以上の人は、即座に手をあげて同じ経験があるといっている。
これが一般に行なわれている実情であるとすると、それではいったい自動車の販売は、他の商品の販売とは事情が違うとでもいうのであろうか。
自動車のセールスマンというものは、一度売り込んだ得意先のことは忘れてしまって、常に新しい買手だけを探し求めて歩くほうが有利だということになるのであろうか。
ある有名な販売会社では、セールスマンのために「けっして顧客を忘れてはならない。と同時に顧客からもけっして忘れられてはならない」というモットーを掲げている。
「私はどうして販売外交に成功したか」F・ベドガー