前の月まで、私の仕事は「人」と向き合うことでした。総務課長として、採用や労務管理に奔走し、社員が働きやすい環境を整える。それが私の専門領域であり、誇りでした。経理の知識など、正直なところ持ち合わせていなかったのです。
しかし、社内を揺るがせた不祥事は、すべてを一変させました。混乱の中、私は経理担当を兼任することに。それは栄転などでは断じてなく、誰もやりたがらない火中の栗を拾う、苦渋の決断でした。「俺がやるしかない」。会社を、そして残ってくれた社員たちの生活を守りたい一心で、私は背水の陣を敷いたのです。
慣れない電卓と会計ソフトに悪戦苦闘しながら、夜を徹して収支計画書を作成しました。人事の人間らしく、そこには「社員一丸となって頑張る」という精神論や、「組織をこう変えていく」という再建への熱意を、これでもかと盛り込みました。数字の裏付けよりも、まずは私たちの「覚悟」を示すことが重要だと、本気で信じていたのです。
「申し訳ないが、これでは話にならない」
銀行の応接室の、重い空気は今でも忘れられません。会社の存亡が懸かった計画書を、私は震える手で差し出しました。
しかし、融資担当者から返ってきたのは、無情な一言でした。
「大本さん、申し訳ないが、これでは話になりません」
頭が真っ白になりました。担当者は、私の計画書が「希望的観測」の寄せ集めであることを、冷静に、しかし的確に見抜いていたのです。
「皆で頑張る、という気持ちは分かりました。しかし、その頑張りを、どうやって1円単位の売上や経費削減に繋げるのですか?この売上予測には、どんな客観的な根拠が?この経費、本当にここまで抑えられますか?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問に、私は何一つ、具体的に答えることができませんでした。人事労務の言葉で語られる「人の心」や「組織の士気」は、銀行という場所ではまったくの無力でした。彼らが求めるのは、感情ではなく勘定。「覚悟」という名の熱量を、「数字」という名の客観的な事実に翻訳する必要があったのです。
希望的観測ではなく、「未来の事実」を語るということ
惨敗でした。しかし、この失敗は私に決定的な教訓を刻み込みました。
特に経営再建という崖っぷちの状況では、「こうなったらいいな」という希望的観測は、毒にさえなり得ます。必要なのは、誰の目から見ても「これならいける」と納得させられる、限りなく事実に近い未来の数字です。
それは、ただの計画書ではありません。会社の未来そのものを賭けた、唯一の信頼の証なのです。この手痛い失敗があったからこそ、私は社長の想いや覚悟を、単なる精神論で終わらせない、血の通った「勝てる計画書」に落とし込むことの重要性を、誰よりも知っています。あのどん底の経験こそが、今の私の経営参謀としての礎となっているのですから。
会社の危機に、社長の想いと覚悟を「魂の入った計画書」に。あなたの経営参謀が伴走します
ビジネスコーチ大本から、今日のコーチングです。
▼ あなたの収支計画書から「頑張ります」「売上を上げます」といった精神論をすべて抜いたとき、そこに何が残りますか?
サムネールは ChatGPT で作成しました。
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