はじめに——赤いポストを撮る若者たち
先日、日経MJで「カラーハンティング」という遊びが話題になっているのを知った。
やり方は単純だ。友達と街に出て、「今日は赤」「私は青」と色を決める。あとはひたすら歩いて、自分の色を見つけて写真に撮る。ポスト、看板、落とし物、壁のシミ、自販機のボタン。撮ったものを最後に並べて見せ合う。それだけ。
「これのどこが面白いんだ?」と思った方もいるだろう。正直、私も最初はそう感じた。
でも、少し立ち止まって考えてみると、ここには今の消費者の感覚を理解するための、かなり大事なヒントがある。
なぜ「上手な写真」より「面白い見つけ方」なのか
ほんの数年前まで、写真の価値は「どれだけ綺麗に撮れたか」で決まっていた。映える料理、映える景色、映える自分。完璧に加工された一枚をSNSに並べて、いいねの数を競う。そういう世界だった。
ところが今、若い世代の写真の使い方はまるで違う。
SHIBUYA109 lab.の2025年調査によれば、Z世代のInstagram利用率は89.6%と高いが、投稿の中心はフィードやリールではなくストーリーズだ。24時間で消える。不特定多数に向けた「作品」ではなく、仲間内で流れていく「会話のきっかけ」として写真を使っている。BeReal.のように「ありのまま」を見せるアプリも伸びている。
飾れば飾るほど、信用されなくなった。
これは写真だけの話ではない。AI生成の画像やコピーが増えた結果、「きれいに整いすぎたもの」に対して人は構えるようになった。2024年以降の研究でも、AI生成コンテンツは受け手にブランドの真正性を下げて見せやすいことが指摘されている。
整えれば疑われる。崩せば親しまれる。
今の消費者の感覚は、まさにこの逆転の中にある。
中小企業にとっての本質——「撮られる」から「見つけられる」へ
カラーハンティングを見ていて、私が一番「これは経営の話だ」と思ったのは、被写体の「選ばれ方」だ。
この遊びで撮られるのは、観光名所でもおしゃれなカフェでもない。道端の消火栓、古びた看板、壁に貼られたシール、駐車場の矢印。普段なら誰も見ない、ありふれたものばかりだ。
つまり、被写体の「すごさ」は関係ない。大事なのは、見る側が持っている「探し方のルール」の方だ。「赤を探す」というルールがあるから、赤い消火栓に目が止まる。ルールがなければ、見えないまま通り過ぎる。
これ、そのまま商売に置き換えられる。
目立つ看板を作ることが集客ではない。「あ、見つけた」と思わせる差異をどこかに仕込んでおくことが、これからの集客だ。
大手チェーンは、どこの街でも同じ外観、同じメニュー、同じ接客で統一する。それはそれで強いが、「発見する喜び」はゼロだ。逆に、壁の色が少し変わっている、ドアの取っ手が面白い、手書きのメニューがある、入口に古い椅子が置いてある——そういう小さな「差異」が、今の消費者にとっては宝探しのヒントになる。
旭川の近くにある食堂は民家を改装した店だ。外観は黄色。雪の中で目立つイエロー。普通の家の玄関に入り、靴を脱いで下駄箱にしまう。廊下のドアを開けて中に入ると壁と天井が白く塗られた茶の間だ。白い塗装はプロの仕事ではなくマスターとスタッフが手作業で塗ったものだ。大きなテレビ(地方のお家にはよくある光景)が鎮座した座敷に、どこの家にでもあるテーブルと椅子が並んでいる。メニューは手書き、壁にも手書きのおすすめが貼られている。レジの横のサラダドレシングのポップも手書き。整然とした、綺麗な、という言葉とは縁遠い手作り感、これが良いのだ。
そのお店のファンになってしまった。

実務でどう考えるか——3つの視点
では、具体的に何をすればいいのか。3つの方向で考えてみたい。
① 店の外観は「広告」ではなく「観察誘発装置」と考える
目立つ巨大看板を作るより、壁の色のアクセント、手書き文字、古びた素材感、ちょっと変わった案内表示のように、「あれ?」と目を止める要素を仕込む方が今は効く場合がある。
今の若い世代は、「説明された見どころ」より「自分で見つけたネタ」を好む。だから、外観設計は「いかに目立つか」ではなく「いかに気づかせるか」で考えた方がいい。
② 集客イベントは「消費」より「探索ルール」を渡す
商店街なら「赤いものを5つ見つけて投稿」「昭和フォントを探す」「丸い看板だけ集める」——こういうイベントは、チラシ一枚とSNSアカウントがあれば始められる。大きな予算はいらない。
名所を一発ドカンと見せるより、歩きたくなる「見方」を渡した方が、滞在時間も回遊率も伸びる。位置情報アプリ「whoo」が2025年に累計3,000万ダウンロードを超えたのも、「行く」より「探す」体験に人が引き寄せられている証拠だ。
③ 企業のSNS発信は「完璧な一枚」だけでは弱くなる
きれいに撮った商品写真、プロが作った広報素材。もちろんそれ自体は悪くない。ただ、それだけだと「作り物感」が出る。
2026年Instagramトレンド分析では、かっこいい写真に撮影の舞台裏を混ぜる構成が伸びているとう。全部を雑にするのではない。整えた中に、偶然と人間味を意図的に残す。
あなたの会社のSNS、最後に「現場の素の写真」を載せたのはいつだろうか?
最初の一歩
難しく考える必要はない。
明日、自分の店の前に立って、スマホを構えてみてほしい。「もし自分が初めてこの店を見る若い客だったら、何に目が止まるだろう?」と考えながら。
写真を撮りたくなる何かがあるか。
それとも、きれいだけど、何も引っかからないか。
その答えが、今の時代に合った集客のスタート地点になる。
まとめ——見つける力が、娯楽になった時代
カラーハンティングは、写真の流行ではない。観察そのものが娯楽になり、撮影はその証拠と会話の道具になったことを示す現象だ。
昔の「写真を撮る」は、対象を保存する行為だった。
今の「写真を撮る」は、対象に意味を与える行為に近い。
「上手さ」より「見つけ方」。「すごい被写体」より「面白い視点」。「不特定多数への誇示」より「近い仲間との軽い共有」。
この流れは、そのまま中小企業の商売にも当てはまる。大きな広告を打つより、小さな「発見のタネ」を仕込む。完璧な情報発信より、素の現場を少し見せる。
目の前にあるものの中に、発見の喜びを仕込めるかどうか。
商売の工夫とは、結局そういうことだと思う。
あなたの店には、お客さんが「あ、見つけた」と思える何かがあるだろうか。
今日、一つだけ考えてみてほしい。
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